店主内木孝一

うつわのみせ大文字
店主 内木孝一さん
 器好きならば、知っている方も多いだろう。表参道に店を構えて22年、「うつわのみせ大文字」は紀ノ国屋からほんの数分歩いたところにある、こだわりの和食器やさんだ。
「こだわり」といっても、店主の内木孝一さんのそれは陶芸作家の名前や個性にではなく、「普段使いの器」であること。普段使いというカテゴリーは簡単なようで意外に難しい。手ごろな値段日々の食事に使いやすく、かつ表参道に来る人々の感性に応える洒落た風情を備えているものが、内木さんが考える普段使いの定義。
そのコンセプトに合う器を、まだ器専門店も数えるほどしかなかった創業当時から探し続けて今に至るという。そんな独特な器選びの視点を内木さんに語っていただいた。
入ってすぐの陳列棚  「大文字」を訪ねたのはちょうど桜が咲き始めた頃。 店先のウィンドーは桜の花をモチーフに春らしく飾られていた。 店に入ってすぐの陳列棚にも桜の器。
周りには人気の高いオリジナルの『平成の染付』シリーズをはじめ、豆皿、銘々皿、小鉢などが整然と並べられているパッと見回してまず思うことは、スッキリとしていて洒落た器が多いということ。
店主のこだわりを感じさせるこの雰囲気からすると、器につけられた価格は驚くほど手ごろだ。
デザインも価格も気になる器、その絶妙なさじ加減の品揃えが「大文字」の魅力になっている。
膨大な数の器を毎朝スタッフ総出で磨くのが創業以来のしきたり。また、器はすべて1個からお求めいただけます。ご家族の人数に合わせて揃えられ、割れても1個ずつ買い足せます。店頭には並んでいないが、ここではレストランの器や引き出物の製作も行っている。試作品を作るなど細かいリクエストにも応えてくれるため、秘かに口コミで人気を集めている。都内のレストランで「大文字」の器を目にしていることも多いかもしれない。
 
 「普段使いの器って何だろう、それを原点にしようと思ったんです。 今でこそデイリーな器という言葉がありますけど、昔はこういう店はなかったですから。 陶芸作家の器を扱う店や量販店はありましたから、そうしたお店とは違うコンセプトでやらないと店を出す意味がないと思いまして。 作家が作った器ではなく、かといって量販店で山積みにされている器でもない。普段使いで、気の利いた器はないものかと。 普段使いって鮭の切り身や納豆、あるいはカレーライスとか、毎日のご飯を食べる器だと思うんです。


 紀ノ国屋で高級食材のお買い物をするような方で、うちに立ち寄っていただくお客様も多いんですが、そういう方たちも鮭や納豆は食べるでしょう。 それじゃどんな器で食べるかというと、おもてなしをする時の立派な器はたくさん持っていらっしゃるでしょうけど、わざわざ先生と呼ばれる方の器では食べないと思うんですよ。 多分(笑)。 かといって粗品でもらったような器では満足されない。 そんな方々の感性に応えられる日常使いとは何だろう、と日々悩んでいるわけです。」
 内木さん自身、多くの陶芸作家との交流があり、作品もたくさん所有している。 が、こと店で扱う器に関しては、作家の名前や個性といったものをあえて外したものが大半を占める。 「普段使いには個性はないほうがかえっていいのかもしれない。」と内木さん。 その上でクオリティを守り、日常使いにふさわしい価格で提供する。 とくに値段は一番の悩みどころだという。

 「日常で使うからには割れても惜しくないというか、もったいないけれどまた買えばいいかという値段−その感覚は大切にしたいですね。 お客様で舞台美術家の妹尾河童さんがいらっしゃるんですけどね、趣味が高じて焼き物を焼くご自分の窯を持っているくらいの方ですから最初は不思議だったんです。
創業当時からあるロングセラー
花紋向付1,000円や黄瀬戸向付1,000円は内木さんいわく「20年戦士」。なんと創業当時からあるロングセラーだ。それだけ長い間、買い足して愛用している人がいるということ。何年も前に買った器が、また買い足せるというのも日常使いの条件だとか。
聞いてみると『1,000円でこんな丼を作れといわれても作れないよ。
 これはよくできてるよ』というようなことをおっしゃいまして。 陶芸をやっているがゆえにわかっていただける。 私たちが提供したいのはまさにそんな器です。
よく『安い』と言っていただくんですけど、決して高い値段のものを値切っているわけじゃない。 そういう値段のものを探しているんです。 500円の小皿、1000円の五寸ほどの銘々皿であれば、どなたにも納得しらえるとプライドを持っているつもりなんですけどね。
 安くて作りのいい「大文字」の器の秘密を、少し明かしていただいた。 まず、絵付けの器に関しては容易なプリントではなく、極力、作り手の感性が光る手書きにこだわっている。 反対に型のほうは手作りや窯焼きにこだわらず、センスがよくきれいなシェイプであれば、機械生産でよいというのが内木さんの考えだ。
割れにくく、追加生産がきくのも多いうえ、当然ハンドメイドよりコストが低い。 そういった器を、地方の小さな窯元で作ってもらっているという。


 「有田や瀬戸など陶器の産地に行くと、家族でやっているような窯元がたくさんあるんですよ。名前で商売する気はなく、でもテクニックはいいといういう窯元が探すと結構ある。
作り手にお願いして絵を付け加えてもらったり、取ってもらったりすることもしょっちゅうです。 例えば有田で作っている伝統的なたこ唐草の八角皿。最初は裏が真っ白だったので『ここまで表に面倒な柄を描くんだったら、裏にもちょっと頑張って一筆入れようよ』と。
裏なんかどうでもいいと言ってしまえばそれまでですが、入れたと入れないでは雰囲気が全然違う。 今は入れてあるのが定番になりました。コストは数百円、違ってくるんですけど、そのことによって趣がぐっと良くなる。

 普段使いだからって何でも省略して値段を下げればいいとは思いません。楽しく使えるということも大事なんです。
逆にもう10年以上のロングセラーになっている青磁小皿なんかは、もともとメダカの絵があったんですよ。 それはそれでかわいいいのですが、メダカがいないことによって一年中使えるし、スッキリする。 しかもお値段は下がるわけです。 そういうひと工夫も、私たちが窯元とお客様の間に入っている、ひとつの役割じゃないかと思うんです。

 趣味の器好きが高じて、印刷業界の営業マンから一転、器の世界に飛び込んだという内木さん。陶器の某老舗に弟子入りし、5年間、京都に移り住んだことが内木さんの『器選びの目』に大きく影響している。
 「和食器だけではなくて、和菓子にしても和服にしても、やっぱり京都にエッセンスのルーツ、和の原点みたいなものがあると思っています。自分の仕事も、そこを原点にしたいという気持ちがあったので、店の名前も京都にちなんで。 京都で『大文字』を名乗ったら怒られるかもしれませんけれども、東京だったらいいかなと(笑)。
そういう意味では店の造りや商品の選び方に、京都のみやびた、粋な世界というか、エッセンスはずっと気にしているつもりです。萩や備前、益子などの土ものがあまりなく、京都、有田、瀬戸などの軽やかな器が多いのも、そういう世界を目指しているからなんでしょうね」


 「それと、当然のことながら和のものは季節に非常に密着しています。四季折々の風情を和食器でも楽しんでいただきたいので、入口のディスプレイは季節感にかなり気を遣っています。
日本の四季というのはとてもこまやかで、たった4つでは表しきれない。 桜が終わると鯉のぼり、6月は新緑に鮎、梅雨明けを待ってセミが鳴く真夏の風情、お盆が過ぎてすぐ初秋に入り、お月見や秋の七草ですね。 それからいよいよ紅葉の季節が来て、晩秋、お正月、節分、早春のひなまつり・・・。
1シーズンを少なくとも2つ以上に分けて、早め早めにディスプレイを変えていくんです。お陰さまで、それを楽しみに来ていただく方がたくさんいらっしゃるんで、こちらも遅れないように。 表参道のような都会にいるからこそ、そういう風情を大切にしたいという方が多いですよね。 季節ごとに手ごろな器を探すのは結構大変なんですが。」
店先
 そう言いつつ、春の展示会で京都へ行くという内木さんは「桜が終わらないうちにと焦っているんです。
お祭りも見たいですし・・・」と、とてもうれしそうだった。
平成の染付シリーズ
平成の染付シリーズは現代の古伊万里とも呼ばれる評判の器。古伊万里のデザインを取り入れつつ、現代の雰囲気に合うようデザイナーと内木さんが共同で作り上げた大文字のオリジナル。
大文字のオリジナル。平成の染付シリーズ

手描きのシリーズと、洋食器の生地に染付のプリントを施したものの2タイプ。
10インチのミート皿(3,500円)のベースは洋食器。もともと和食器にこのサイズはなかったという。和洋中、どんな料理を盛りつけてもなじむためとても重宝する。「食生活の多様化に応じて出てきた器ですね。器にも生きものと同じように鮮度がある。伝統的なものだけを並べるのではなくて、現代に合う器を作っていかないと」と内木さん。